1月2日~14日

読書

電車内にて。主人公の女子大学生は首筋に顔を近づけるおじさんを痴漢と認識する。不快な気分のまま、彼女が目的地の駅ホームへ降車しようとすると、突然、体調に異変をきたす。その後、不可解な日常生活の変化、趣味嗜好の変化を体験する。自己分析すると、自分は吸血鬼となっているのではないか…?新井素子短編集『グリーンレクイエム』中の「週に一度のお食事を」

大手美術画廊オーナーと金で買われた駆け出しの画家、理想の画廊をオープンするべく大手画廊から独立しようとするも失敗した画商の男、一匹狼の泥棒、女性カウンセラーと二軍サッカー選手の不倫カップル、新興宗教の教祖とその教祖を慕っていた二人の男、リストラされた男、野良犬。それぞれ別々の人生を歩んでいた人々が仙台の街であやしく交差する、挫折と再生の物語…。伊坂幸太郎『ラッシュライフ』

アラサーの無職と後期高齢者が現代の世相を反映させながら、アパートに毛が生えたような4階建てのマンションで巻き起こす、おぞましくも滑稽な住人たちの悲喜劇。折原一『グランドマンション』

とある老舗の結婚式場に集う、訳ありで謎めいていてお騒がせな4組のカップルの挙式と、その式場で働く人々や結婚式の裏事情を交えながら、時系列に沿って、コミカルに、時に感動的に描く、辻村深月『本日は大安なり』

不埒な目的をもって店内に潜伏する社員、奇妙奇天烈な非常事態に翻弄される警備員、創業家出身の社長、家出してきた10代のカップル、仕事と家族から見放された男、大怪我を負いながら何者からか逃げ回っている元警察官らが、ある汚職事件や不倫のごたごたを引きずりながら、閉店後の深夜の老舗デパートで静かな大騒動を巻き起こす、信保裕一『デパートへ行こう』

千葉県市原市の工場で荷役として働きながら生きてきた中年の独身男が、ひょんなことから銀座の若い美女を介抱することになり、やがて淡い恋心を抱くようになる、短編浅田次郎『月のしずく』

今月前半で読んだのは6作品。新井素子と浅田次郎の短編は共に、幻想的というか夢見がちな文章や雰囲気をたたえていて可愛らしい。その他の長編作品はいわゆるグランドホテル形式と呼ばれる表現方法で書かれている。いずれも多くのキャラクターを登場させながらそれぞれをうまく交差させ、ハッピーエンドへと着地させる緻密でミステリーの要素を含んだ構成と技術に脱帽したが、折原一『グランドマンション』にいたっては、オチが力技というか、ラストの急激な展開にびっくりした読者はしばし放心状態となり、腑に落ちないまま次の章を読み進めることになるかもしれない。

ドラマ・映画

三が日にテレビで放送されていた映画・ドラマを中心に鑑賞する。

1月2日04時15分~06時テレビ東京で二本立て続けに放送された新春ロードショー『デーブ』『ナッシング・トゥ・ルーズ』は佳作だった。つくづくアメリカは大統領を題材にした映画が好きだなぁと思ったのと、大統領というキャラクターを通して、強いアメリカ、柔軟な考えができるアメリカを誇示し続けるアメリカ人に関心する。『ナッシング・トゥ・ルーズ』も定番のバディもので、まったく個性が違う白人と黒人が珍道中を繰り広げながら、家族愛を再確認していく物語がコミカルで平和的に描かれていて面白かったし、勧善懲悪で表現されているので、悪い奴らはちゃんと懲らしめられるし、いい奴はちゃんとハッピーエンドを迎えて安心して楽しめた。

1月4日21時フジテレビで放送された『約束のネバーランド』。昨今増え続けている漫画原作の作品なので、原作を知らない私が詳しく感想を述べることはできないのだが、設定や世界観は一見、目新しく見えるものの、実写化された映画だけに関して言えば、通称「鬼」に喰われる子供たちや人間たちの姿は、原始の人間や哺乳類が大型動物に怯えて暮らしていた時代そのままじゃないか、ということ。大きなものが小さなものを食らうのは弱肉強食の食物連鎖のなかでは当然で、いつのまにか食物連鎖から外れていた人間がまた、その輪の中に加わっただけではないか、と。そして、大きなリスクをおかしてまで孤児院を脱出し、外の世界に、より住みやすかったり魅力的な場所を見つけようとする行為も、人類の文明の発達の歴史そのものだ。より暖かい場所へ、より多くの食べ物がある場所へ。希少性の高い石や貝を手にいれるため、一本の木をくりぬいただけの丸木舟で現代の知識でも考えられないほど遠くの島へ漕ぎ出していく…。

外付けハードディスクに録画されていて、タイトルだけではどんな作品だったか思い出せないものにメリル・ストリープ主演の『幸せをつかむ歌』があった。若いころから音楽で生計を立てることを夢見て、一度は結婚し三人の子供を出産するも、家を出て、現在はスーパーでレジ打ちのバイトをしながら大衆的なステージ付きバーで有名ミュージシャンのコピーを演奏する日々を送る女性の物語だ。夫や子供に母親失格の烙印を押され、夫の二番目の妻からも家族や家族にまつわる行事をすべてすっぽかした女として冷遇されるなかで、ラストシーンの長男の結婚式にて、「私はミュージシャンで、歌でしか思いを伝えることができない。ミック・ジャガーは何人もの女と結婚してたくさんの子供を作り、一回も子供の学校行事に参加せずとも英雄視されているのに、女はたった一回の子供の発表会を欠席しただけで人間扱いされない~それでも家族の幸せを願う気持ちを歌にのせて伝えます、伝々…」といったメッセージが胸を打った。作品の公開が2015年で、Me too運動の時期とも近く、フェミニズム的観点から捉えても評価できる良作だろう。

ドラマに関して言えば、1月3日から二夜連続でテレビ朝日で放送された松本清張原作『顔』『ガラスの城』も、原作発表から半世紀以上経った今でも、色あせることなく存在感を増していた。令和の現代人でも共感しやすいように、物語のひっかきまわし役にYoutuberを登場させるのは、最近のドラマではもうお馴染みだ。

そして地味に、最近はNHKドラマに注目している。昨年から放送開始された『あきない世傳 金と銀』『仮想儀礼』は必見だ。漫画が原作で、日本テレビで放送された『波よきいてくれ』(2023)で、危険な色気を放っていた、やさぐれ金髪ヤンキーを演じた小芝風花が180度イメージチェンジし(というより元々の彼女のイメージに立ち返り)、『あきない世傳 金と銀』では、素直で純真な商才溢れる少女を演じている。肌の白さと明るい色合いの着物との取り合わせが美しい。『仮想儀礼』も、新興宗教の信者によく声をかけられる筆者にとって興味を引くモチーフを扱っているし、原作の篠田節子は多彩なジャンルを書き分けられる天才的な書き手であるので、面白くないわけがない…。

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