ソニーピクチャーズの公式youtubeチャンネルで、2018年にアメリカで公開された「クレンズ・フレンズ」という作品が無料公開されていた。
まったくの予備知識がない作品なので、インターネットで検索をかけてみると、ホラー/コメディに分類されているらしい。私は怪談や精神的に迫ってくるようなホラーはわりと好きなほうなのだが、海外の人間が作る、スプラッターとか肉体的苦痛を伴うようなホラーは大の苦手である。というより、大嫌いだ。
おそるおそる鑑賞する…。
初めに、ソニーピクチャーズの公式HPに紹介されている、あらすじを記しておこう。
傷心の男性が、自分自身を浄化して壊れかけた人生を修復しようと、スピリチュアル系のリトリートに参加する。そこで彼は同じように悩める仲間と出会い、共に“クレンズ”というデトックス法を行う。ところが体から排除されたのは、日々の毒素だけではなかった…。
まったくホラーではなかった。言葉の行間を読むような、シュールなコメディテイスト。ホラーを思わせる気持ち悪いものと言えば、登場人物の身体から出てきた不気味なポケモンのようなもの、だけである。作品自体は、人生の岐路に立たされた登場人物たちがどうやってその困難を乗り越えるのかということを主題にした、純然たる人間ドラマである。
映画としては、特に目新しい工夫があるわけでもないし、ストーリー展開も奇抜だというわけでもない。上映時間も一時間ちょっとなので、長編映画というよりは「小品」という印象である。だからと言って、駄作だとか、平凡だとか、つまらなかったというわけではない。むしろ、個人的には意外と良作だったな、と思った。
なぜ良作だと思ったのかというと、まず、ストーリーが単純でわかりやすい。作品の構成がシンプルなので余計なことを考えずに済むということがある。俳優の演技や、体内から排出されたモンスターがなにを象徴しているのか、を考えることに集中できるのだ。そしてなにより、俳優が名バイプレーヤーばかりなのだ。
アメリカ映画をよく観ている人ならば、一度は顔を目にしたこともあるだろう、オリヴァー・プラット。アダムスファミリーのお母さん役でお馴染みのアンジェリカ・ヒューストン。主人公のポールは、2000年公開の「偶然の恋人」で口の達者なゲイのセス役をやったジョニー・ガレッキ。2022年公開の「ディナー・イン・アメリカ」で伝説的パンクバンドのフロントマン役をやったカイル・ガルナ―など…。
キャスティングが実力派勢ぞろいなので、画面に説得力がある。地味に見えるのに、豪華である。日本の伝統工芸のように、華やかさはないが、わび・さびの世界が漂っている。
あと、もうひとつ。登場人物が体内から吐き出したモンスターに手作り感があることが魅力だ。特殊技術に詳しいわけではないので、どうやって作ってどうやって動かしているのかはわからない。動かない模型を作って、あとでCG処理をほどこしているのか。ストップモーションアニメのように、関節の動く模型を一コマずつ動かしながら撮影し、作り上げているのか。しかし、これだけは言える、ということは、そのモンスターの動き方を見て、監督の映画への愛を感じる、ということだ。
大作にしろ、低予算作品にしろ、昨今はCGだかVFXだかでどれも似たり寄ったりの映像表現になってきているなかで、手作り感というのは貴重な存在意義を示しはじめている。観客の心にじわじわ染みこんでいく、するめのような味わいだ。
本作の脚本・監督を担当したのは、ボビー・ミラーといって、調べてみると手掛けた作品数もそう多くない、新人のようだ。
監督が運営しているらしきウェブサイトを発見した。
https://www.bobbymillertime.com
過去に、ショートフィルムを数本作って映画祭へ出品した後、本作が監督にとっての劇場長編映画デビュー作になっているらしい。
彼のウェブサイトにアップロードされている、ショートフィルム(『TAB』と『END TIMES』)には、「クレンズ・フレンズ」に通ずる、監督の人柄や作風が垣間見れて、今後彼の作品を観る際の良い参考になるだろう。
それにしても、ポールやマギーは心の闇に一見打ち勝ったものの、どういう人生をこれから歩んでいくのだろうか?