本書は、2000年から2016年までに出版されたフジコ・ヘミング氏の書籍を参照しつつ(巻末にrefference listと記載)、彼女への過去のインタビューからエピソードを45個分抜粋して、その各エピソードから、特徴的で示唆に富む言葉を一言ずつ提示して、読者やファンへの金言集として構成したような組み立て方になっている。
例えば、part1の『愛しなさい!幸せが待っている』の中で紹介されている一つのエピソードでは、
―幸福と不幸は半分ずつ
一生、幸福の人はいないし
一生、不幸の人はいない
と題し、シャンソン歌手のマリア・カラスや彼女自身の人生を引き合いに出しながら、人生には良い時もあれば悪い時もあり、無理に幸せを作ることはできないし、抗おうとしても運命を変えることはできないと説明し、
「運命も人生も変えることはできない。今を受け入れることが大切。」
というワンポイントアドバイスで結ぶ。
フジコ・ヘミング名義で出版されている書籍は、その時々で少しずつテーマが変えられてはいるものの、彼女の人生についてインタビューしたものを聞き書きしているという点で、紹介されているエピソードは共通したものが多い。本書も、他の書籍で読めるようなエピソードが掲載されていて、フジコ・ヘミングファンとしては聞き馴染みのあるものばかりだが、しかし、細かい所に注目してみると、新たな情報に出会うことができるので、見落としたり流し読みをすることは禁物だ。
特に、戦争についてや両親、読書、映画や映画俳優についての話題は面白い。彼女がクラシックだけではなく、ジャズやロック、シャンソンに民謡、演歌も好きで、美空ひばりから観客へのアピールの仕方を学んでいる点も興味深かった。
クラシックファンもそうでない人も、フジコファンもそうではない人も、波乱万丈な人生を送ってきた彼女の言葉に勇気づけられたり、くじけそうになっている心が救われることもあるに違いない。
本書は第一刷が2018年に発行されているが、ほぼ内容は同じままで加筆・修正されて、2022年に『「幸福」と「不幸」は半分ずつ。』(PHP文庫)という文庫版が出版されている。
掲載されている写真が数枚ほど変更されている他、巻末の「文庫版に寄せて」というあとがきのような部分でロシアのウクライナ侵攻やコロナについて言及し、小倉百人一首の藤原清輔朝臣(ふじわらのきよすけあそん)の歌を引用しながら、ひたむきに自分の人生に向き合っていれば、きっと神様は見ていてくださるだろう、と励ましの言葉を添えていることが印象的だ。
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