フジコ氏がいままでに住んだパリの家を紹介しながらパリの街についても語るスタイルは、『私が歩んだ道、パリ』(ぴあ株式会社)と似た部分があるが、本書はより、彼女の芸術談や人生談について学ぶことができる。
柔らかくマットで、ややハイキーな写真も美しく、フジコが集めた小さい道具やテーブルに置かれた果物のアップの写真などが彼女の生活感をリアルに伝えてくれる。ところどころに載せられた彼女の描いた猫の絵も可愛い。
デザイナーでもあった父親の才能が遺伝したのか、小さい頃から絵を描くのが好きだったようで、彼女が絵を描いている姿を見ることができたり、同じ日本人で猫好きだった藤田嗣治に言及した折、パリで活躍した芸術家の話から芸術についての話、ひいては、どんな苦境に立たされても前向きに生きるための心得を語ったり、ためになる話がいくつも出てくる。
パリで生きるアーティスト同士、感じるものがあるのか、それとも、フジコも苦労をしてきただけ他人の苦しみや痛みが理解できるのか、社会の外側で生きるパリの大道芸人にも優しい眼差しをかける。サンジェルマン・デ・プレのカフェで遭遇した大道芸人のおばあさんと犬のエピソードが特に興味深い。
戦時中に飼っていたチャロという犬が日本軍に殺されてしまった話や、マリー・アントワネットの最期について、前記のような、決して報われなかったパリの芸術家について、はたまた大道芸人についてなど、本書全体に死の匂い、または哀愁が色濃く漂っている。
フジコやパリの街の人々を撮影した色気のあるざらついた質感のモノクロ写真に、エルスケンの『セーヌ左岸の恋』を思い出したり、巻末のソフトフォーカスがかかったメリーゴーラウンドの写真にフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』を連想させることができた。
数々のアート作品やフジコの挿話などからパリは、明るく派手なばかりではない、物悲しく朽ちていくような孤独のイメージが筆者の頭の中に広がっていくが、その、孤独で個人主義で、日本でもドイツでもできなかった自由に生きていける雰囲気に、彼女は魅かれたのだろう。
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