暗く辛かったドイツ時代とは対照的に、パリで過ごす時のフジコの心はとても満ち足りているのだろう。パリを語ると、いつの時でも、嬉しそうで、楽しそうだ。大好きな犬や猫と生活し、街を散策するだけでも、強い喜びを感じているだろうことを、聞き書きの本文は伝えている。
第1章は、パリでの生活、ドイツ・ウィーン・スウェーデンで過ごした不遇な時代のエピソード、パリを拠点に活動するようになってからヨーロッパの各地で演奏活動ができるようになったこと、母・投網子の厳しいピアノの稽古、夢見がちな少女時代、学生の頃の思い出などを語る。
第2章では、2001年にモンマルトルの丘で部屋を見つけてからの、パリでの住居の変遷(モンマルトル→サン・ルイ島→マレ)を語る。街を歩き回り、教会や美術館・博物館、骨董品屋や数々の店をまわって、冒険と発見を繰り返している様がほほえましい。書籍の構成も、カラー写真が多くなり、イラスト風の可愛い地図や、ピックアップされた各エリアのお勧め店舗が紹介されており、ガラリとガイドブックの雰囲気をたたえていて、読んでいるだけでワクワクする。
第3章はパリゆかりの音楽家を、フジコの小旅行と共に解説する。フジコが音楽家たちへの知識や愛、思いを語っているが、おそらく編集者(?)が参考資料を使って加筆しているのだろう。クラシック音楽の門外漢やにわかファンにとって知らない言葉が出てくるので、多少調べながら読まないと理解できないこともあるが、新たな知識が得られるので、苦手意識を持たずにご一読いただきたい。
フジコの半生についてのインタビュー、旅行者への楽しいガイドブック、パリにまつわる音楽家を紹介した伝記的な記事、と本書の構成はとてもバラエティに富んでいる。
『おわりに』にて、数多くの芸術家たちが目にした景色を見、教会の鐘の音に耳を傾け、生活に溶け込んだ音楽を楽しむパリ市民に思いを馳せるフジコの言葉に、読者は深い感慨にふけるだろう…。
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