本書はフジコ・ヘミングの半生を通して、不遇な時代の多くを過ごしたドイツと、若い頃から憧れの街だったフランス・パリを対比させる。そして、Chapter2からは、彼女が住んだパリの家の紹介やパリの好きな場所について紹介する。
ドイツ人とフランス人の国民性について言及する箇所があり、実際にヨーロッパに住んでみないと発見できない視点なので、筆者としては興味深い。
30歳を目前にしてベルリン留学をきっかけとして日本を飛び出し、1999年のNHKのテレビドキュメンタリーでフジコ・ヘミングブームが起こるまで、辛く暗く不遇な時代を過ごしたフジコ。その修業時代に、パリで活動した数々の芸術家の物語やモンマルトルへの憧憬が、いかに彼女の心の支えになったのかを知ることができる。
ベルリン留学時代から、たびたびお金を貯めてはモンマルトルを訪ねていたようだが、演奏家として成功し、活動が軌道に乗るようになると、憧れのパリ、憧れのモンマルトルに住むようにもなる。刺激を受けた芸術家たちの足跡をたどり、大好きなユトリロの絵画に登場する街角が実際に存在することに感動する様が愛らしい。
日本にいた頃からフランス映画も好きで、新宿の小さな名画座で映画を観た際に、その映画館があるビルの5階のトイレの窓から外を見ると、屋根が連なっていて、新宿の街並みがパリのようだった、という挿話に、彼女にとってパリは終生、夢とロマン、デラシネの自分を受け入れてくれる唯一の場所だと思いを馳せるよりどころだったのだと、想像できた。
色気のあるカラー写真と、パリの街を男に見立てたフジコの言葉。彼女がいろいろな所で買い集めたアンティークグッズや、愛猫、猫好きの彼女のイメージには珍しく、愛犬・ダギーも登場し、他の書籍やインタビューではあまり聞くことができない情報を知ることができる。大きめの文字も読みやすく、巻末には観光をスムーズに行うための豆知識とお勧めホテルの情報も載っていて、優しい。